人間ピラミッドの議論から考える経済的思考
このところ小学校や中学校の組体操で行われている人間ピラミッドに関する話題を多く耳にするようになった。
このコラムでは、ピラミッドを実施することの是非については議論しないが、一部から危険であるという指摘があるにもかかわらず、なぜこれを続けるのかという理由を聞くと非常に興味深い。一連の議論はお金のセンスに関する議論と非常に似ているのである。
埋没コストの概念が出てきたら要注意
人間ピラミッドを続けるべきという意見には様々な種類があるが、あえて類型化すると、以下の2つに集約されるだろう。ひとつは「これまでの教師や生徒の努力がムダになる」というもの。もうひとつは「達成感」や「絆」である。
これまでの努力がムダになるというのは、本コラムでも以前、取り上げた、いわゆる「サンクコスト(埋没コスト)」の概念に近い。サンクコストとはすでに支出してしまっており、とりかえすことのできない費用のことを指している。
あるプロジェクトに多額の費用をかけてきたが、あとになってそれが所定の収益を上げないことが分かってきた。その時、撤退すべきか継続すべきかという課題である。過去にいくら使ったのかは、将来の収益には影響しないので、合理的に考えれば、過去にどれだけの費用をかけたとしても、儲からないなら、撤退した方が得策ということになる。
だがここで「これまでに投入した努力を考えると今さら撤退できない」と考えてしまうと、判断が狂ってしまう。経済的に成功したければ、埋没コストは無視しなければならないというのがセオリーである。もしこのピラミッドの是非についてあてはめるなら、過去の教師や生徒の努力とは関係なく、実施した際の安全性についてのみ議論した方が合理的だ。
ここで、過去の努力という埋没コストに振り回されてしまうと、合理的は判断はできなくなってしまう。
感動の消費は高くつく
もうひとつは「達成感のコスト」ともいうべき考え方である。人間は、作業にやりがいなどを感じ、それをモチベーションにできる動物である。これをうまくコントロールできる人は、経済的にも大きな成果を得られることが多い。
一方、人間は達成感や絆、感動といった精神的な喜びを消費者として購入することもできる。分かりやすいのは大金をかけた旅行であろう。ある程度、お金をかければ、比較的簡単に感動は買うことができる。
同じように、お手軽に感動を得るための方法としては、苦役や危険な行為を敢えて行うというものがある。危険を伴う行為は、アドレナリンが出て、短期的には効果がある。苦役もそれを終えた後の感覚は非常にすばらしいものがあるだろう。
だが、こうした感動の消費は現実には高く付くことが多い。危険な行為は、危険であるという部分を除けば、実施のハードルが低い。ある意味では誰でも取り組むことができる。一方、もっと地道な行為から大きな成果を得るという行為には、長い忍耐や努力が必要となり、実施へのハードルは高い。
リスクを取ることと無謀なことをすることはまったく異なる行為である。危険なことに取り組む時には、冷静にこうした状況について分析してからの方がよい。ピラミッドのケースにも同じ事がはてはまるだろう。
関連記事
-
-
スタートするのは早いほうがよいか?
ただ漠然と毎日を過ごしていてもお金持ちになることはできない。事業であれ投資であ …
-
-
ショーンK氏に怒っているようでは、お金持ちになれない
ショーンK氏の学歴詐称問題が話題となっている。学歴詐称は論外であり、ショーン氏 …
-
-
本当に好きなことはお金を持ってみないと分からない
お金がなくても好きなことをやれていれば幸せであるという考え方については筆者も否 …
-
-
「ぶっちゃけ」という人を信用してはいけない
交渉の最中に「ぶっちゃけ」というセリフを口にする人をよく見かける。お金持ちにな …
-
-
野球のことならイチローに聞け、お金のことなら金持ちに聞け
世の中ではお金のことについて様々な人が見解を述べている。だがその中には、自分で …
-
-
お金持ち人脈の秘密に迫る
お金はお金が大好きだといわれる。お金はお金のあるところに集まってくるのだという …
-
-
お金持ち最大のメリットは苦痛を減らせること
お金で幸せは買えない、お金があったからといっていい人生が送れるとは限らない、な …
-
-
お金持ちのクレームの付け方
前回はお金持ちの交渉術について解説したが、今回は関連してお金持ちのクレーム術に …
-
-
投資信託を買う人はお金持ちになれない?
株式投資の入門として投資信託の購入を検討する人は多い。投資はお金持ちになるため …
-
-
1日24時間は全員に平等というのはウソ
前回の記事では、時間には値段があると書いた。時間の値段とはどういうことなのだろ …
- PREV
- お金持ちがポジティブ発想なのは精神論からではない
- NEXT
- 独立と自立は違う